まなびリスの部屋

主に読んだ本について語ります。

影響力の武器:返報性

返報性のルール

私たちの身の回りにある様々な影響力の武器の中でも最も強力な武器。らしい。

このルールは、「他者がこちらに何かの恩恵を施したら、自分も似たような形でお返しをしなくてはならない」というもの。

この返報性は人間社会・文化に広く浸透しており、アルビン・グルドナーなどの社会学者は、すべての人間社会がこのルールを採用していると報告している。

 

なぜ返報性のルールはそれほど強力とされるのか

私たちが今日人間的でありうるのは、祖先が食糧や技能を「名誉ある恩義のネットワークの下で」共有してきたからであり、この人類特有の適応メカニズムである「恩義が織りなす織物」によって、人々の労働が分担され、多種多様な物やサービスが交換され、個々人を高度に能率的な集団へとまとめ上げる相互依存性が生み出されたとされる。

よって、そのような形での社会進出に不可欠なのが、受けた恩義に将来必ず報いなければならないという義務感である。

他者へ与えたものが決して無駄にはならないと確信できることで、取引などの先に与えることから始めなければならない行為に対しての心理的抵抗感が減るのである。

 

人間社会は返報性のルールから非常に大きな利益を得ているため、人間社会はその成員がこのルールを遵守し、信じるように教育しようとする。また、ルールを守らない者には社会的制裁や嘲笑が与えられる。

社会的動物にとって群れからの追放は死を意味するので、私たちは「たかり屋」とか「恩知らず」とか言われないように一生懸命努力するのである。

 

意外なことに、返報性のルールを反対の方向に破る人(与えるだけで、その受け手がお返しする機会を認めない人)も、他者に嫌われる傾向があることが明らかにされている。

 

自分がお返しをできないのがわかっている場合、援助が必要でもそれを求めたがらないことがある。心理的負担は物質的な不利益以上に耐え難いことがある。

 

返報性のルール

・報恩の義務は、小さな恩義では時間の経過とともに薄れ、大きな恩義では極めて長い間生き続ける。

・自分から頼んだかどうかとは関係なく恩義の感情が生まれる。

・「幅」があるため、小さな親切で大きな恩義を返す義務感を与えることができる。

・恩返しへの義務感は最初に手助けを受けた人だけでなく、その人が所属する集団の構成員も感じるもの。恩返しの対象も、その人だけでなく、その人の家族にもなりうる。

・家族や親友などの長期にわたる関係では、純粋な形の返報性は不要であり、また望ましくもない。こうした「共同」的関係で返報性に交換されるものは、相手が必要とするものを必要なときに喜んで提供しようという気持ちである。

・搾取の試みとして返報性を利用する相手には恩義を感じる必要はない。快く受け取り、お礼を言って送り出せば良い。搾取の試みに対しては、搾取でお返しすれば良いのである。

 

具体例

・休憩時間にコーラを奢ってもらったので、その後にチケットの購入を頼まれた際、購入してしまった。

この実験では、相手に対する好感度が高いほど購入枚数が多かった。驚くことに、コーラをもらった際には、好感度と要求を受け入れる割合の相関関係が全くなくなっていた。

・先にプレゼントをしてから寄付を求めることで寄付金を集められたが、一度引っかかった人は警戒し、引っ掛からなくなった。

・伝票にキャンディーなどを添えて渡すことでチップの額がかなり増えた。

・チーズを客に自分でスライスさせて試供品として食べてもらうことで驚くほど売れた。

・家庭用クリーナー等のセット入りバッグを1〜3日ほど家においてもらい、好きに使ってもらう。その後、買いたいと思う商品の注文をとる。→驚異的な効果。

 

「拒否したら譲歩」法

返報性は譲歩でも効果を発揮する。相手が譲歩したので、自分も譲歩しようという気にさせるのである。また、知覚のコントラストによって、後に出した要求をより小さく感じさせることができる。

譲歩には2つの副産物があり、これによって丸め込んで飲ませた要求を実行し、似たような要求を繰り返した際にも、嫌がらずに応じるように仕向けることができる。この二つの副産物とは、取り決めに対する、より大きな責任感とより強い満足である。譲歩は最終的な合意を「取りまとめた」と思わせ、より強い責任感を植え付けた。契約条件の作成に関与した場合、人はその契約をより遂行させようとする。また、交渉相手の譲歩によって合意がまとまると、満足感が非常に高くなる。

 

例)

・セールスを断られたら、興味を持ちそうな知人を紹介してもらう。

・五ドル借りたいときに、先に十ドル貸してくれと頼み、その後譲歩する。

 

政治の世界における返報性のルール

・政治の上層では、公職に選出されたものたちが、選出されたと同時に「なれあい政治」を始める。恩恵を施したり受けたりするので、政治の場は、奇妙な形で馴れ合う人々が集まる場所になるのである。議員が想像もしなかった法案等に票を投じるのは、法案提出者に対する恩返しで行っている可能性がある。

・政治の世界の下層でも返報性は威力を発揮する。法廷関係者や法律を制定する議員にプレゼントを届けたり、恩を売ろうとする企業や個人の存在と、それを制限するいくつもの法案、重要な選挙で対立している二人の候補者のどちらにも献金を行う会社や組織を調べると、その影響力の大きさは一目瞭然である。

30万ドルの政治献金に対する十分な見返りはあったのかと言う質問に対し、ロジャー・タムラズは「次は60万ドル献金しようと思っていますよ」と答えた。

 

心臓病の治療薬の使用を支持する研究結果を発表した科学者は全員が製薬会社から何らかの援助(接待旅行、研究助成金、雇用など)を受けていたのに対し、批判的な研究者の中で援助を受けていたのは37%であった。

AP通信の取材によると、多額の献金を受け取った議員が、選挙キャンペーン中に最も多額の寄付を行った団体の意に沿う形で法案に投票する確率は、そうでない議員の七倍以上に上る。結果として、当時の連邦議会議員の83%がこうした特別利益団体に有利になるような投票を行った。

 

参考・引用:影響力の武器[第三版] なぜ、人は動かされるのか